習近平主席の2人の旧友と「その後」

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海外中国メディア「大紀元」日本語版には「新聞看點」と呼ばれるポッドキャストがあって、中国関連のトピックスを李沐陽氏が視聴者に分かりやすく解説している。最近は「バイデン氏、習近平氏は旧友ではない」というタイトルでバイデン氏と習近平氏の関係、習近平氏が1兆ドルの投資でチップ産業復興プロジェクトを立ち上げ、その責任者を習近平氏の旧友と言われている劉鶴副首相に要請したという話を報じていた。習近平氏の2人の旧友が登場する。以下、李沐陽氏の講話の概要をまとめた。

習近平国家主席(新華社サイトから)

習近平国家主席は米国の圧力でチップ産業が困難な状況に陥り、中国の通信関連大手ファーウェイ(華為技術)も最新スマートフォーンをプレゼンテーションできなかったほどだ。ファーウェイ社は買いためていたチップがなくなり、新製品を開発できなくなってきたというわけだ。チップ産業を重視する習近平氏は5月、科学・技術者を集めた会合でチップ産業の復興は中国の復興にとって不可欠であり、米国や英国製への依存体質から脱皮し、中国製チップの開発に乗り出すべきだと檄を飛ばしたというのだ。

興味深い情報は、そのチップ産業の復興プロジェクトの責任者に習近平氏の旧友、劉鶴副首相が任命されたことだ。69歳の劉鶴副首相への習近平氏の評価が依然変わらないことを物語っている。劉鶴副首相については、米中貿易交渉で米国側に譲歩し過ぎたとして政権内から批判の声が上がり、ひょっとしたら失権したのではないかと噂されていたが、習主席の同副首相への信頼は変わらないようだ。大紀元の李沐陽氏は、「習近平氏は米国との交渉は決裂したと判断、衝突を恐れない決意を固めたのではないか」と指摘している。

バイデン大統領と習主席は「旧友関係」といわれてきたが、その関係も終わったというのだ。バイデン氏が副大統領、習近平氏が国家副主席時代(2009年~2017年1月)、少なくとも4回、両者は面談しているという。2013年12月、習近平主席はバイデン氏を「旧友だ」と述べている。

そのバイデン氏は今年6月16日、スイス・ジュネーブで開催された米ロ首脳会談後の記者会見で習近平主席との関係を問われた時、「お互いよく知っているが、旧友ではない」と述べている。副大統領時代に訪中して習氏と会談するなど交流を重ねたバイデン氏は「はっきりさせておきたい。純粋に実務上の関係だ」と答えている。

大紀元によると、バイデン氏は副大統領時代の2011年8月、訪中し、国家副出席だった習近平氏から大歓迎されている。習氏は2012月2月、今度は訪米し、バイデン氏に大歓迎され、ロサンゼルスでは両者はチョコレートを一緒に食べるシーンが報じられたほど、その関係は良好だったという。バイデン氏は中国、日本、韓国を訪問した際、日本では安倍晋三首相(当時)との間で共同声明を発表する予定だったがやめている。日本側から中国への批判が飛び出し、中国を不快にさせるだけだと判断した結果だ。

そして、バイデン氏は2021年1月、46代米大統領に就任、習近平氏は2013年から国家主席を務めているが、両者はもはや「旧友ではない」というわけだ。バイデン氏の場合、大統領選でも次男のハンター・バイデン氏の経済活動が批判にさらされた。ハンター氏は2013年12月、父バイデン副大統領(当時)が中国を公式訪問した際に同行した。その後、ハンター氏らが設立した「ローズモント・セネカ・パートナーズ」に中国の銀行から10億ドルの出資金が振り込まれ、後に15億ドルに増額されたという情報が流れている(米著作家ペーター・シュバイツァ―氏)。「ハンター氏は中国の石炭で金持ちとなった。そして中国の米国での戦略的資産取得を助けてきた」という。

バイデン氏が家族の中国関連企業との密接な関係が取り沙汰されて、共和党から激しい追及を受けるなど、就任前からバイデン氏は中国寄りという憶測が流れた。それを知っているバイデン氏は就任後、対中国政策ではトランプ前政権の政策を継承し、中国に対しては厳しい姿勢で臨んできているわけだ(「バイデン・ハリス組の『中国人脈』」2020年9月11日参考)。

習近平氏は旧友の一人、劉鶴副首相への信頼は変わらず、要職に抜擢しているが、69歳の同副首相にとってはチップ産業復興プロジェクトは建設プロジェクトではない。資金と人材を投入すればいいというわけではない。地道な努力と時間がかかる分野で直ぐに成果が出る課題ではない。習近平氏の信頼に答えることができなければ、今度は本当に失権することにもなる。

バイデン氏と習近平氏の関係はバイデン氏が言うようにもはや旧友ではなくなったのかもしれない。バイデン氏は新型コロナウイルスの発生源問題で中国側に調査の協力を強く要請する一方、欧米諸国の反中国包囲網を構築してきた。習近平氏は本来、旧友に頼らず、新しい友人を探すべきだが、党内にも反習近平包囲網が構築されてきた今日、友となってくれる人物を探すことは一層難しくなってきた。英国の歴史学者トーマス・フラー(1608年~1661年)は、「見えないところで、私のことを良く言っている人は、私の友人である」と述べている。習近平氏にそのような友人がいるだろうか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年7月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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