ドイツ式のイカダに乗りに行ったら、帰れなくなるところだった

デイリーポータルZ

先月、ベルリン郊外の湖でイカダに乗ってきた。

イカダというとトム・ソーヤーの丸太のイカダを思い浮かべるが、ドイツ式のイカダは屋根もついてるし、泊まることだってできるのだ。

そんなものをイカダと呼んでいいものか分からないが、とりあえず乗ってきた。

夏だ!湖だ!イカダだ!

ベルリンの夏の風物詩といえば、湖水浴である。

ベルリンや近郊のブランデンブルク州には数えきれないほどの湖がある。海よりも手頃に遊びに行けるため、天気の良い週末などは湖に人が殺到する。

2018年のブランデンブルク州の公共水浴場の水質を示す地図。ベルリンとブランデンブルクには合わせて3000以上の湖があるらしく、ドイツ国内で最も湖の多い地域だそうだ。

湖によってはビーチのように整備されている場所もあるが、自分で適当な場所を見つけて泳ぐ、自由なスタイルが主流だ。

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いろんな設備がバッチリ揃っている、ベルリン市内の湖のビーチ。

泳ぐだけでは物足りない人は、カヤックやボートなどのレンタルサービスも利用できる。そんな中でも我が家でマイブームなのが、イカダのレンタルだ。

ドイツ式のイカダ「フロース」

イカダと言うと思い浮かべるのが、トム・ソーヤーの冒険に出てくるような丸太のものや、浮きに板をくくりつけたシンプルなものだ。

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私が想像するイカダは、江坂さんの記事に出てくるような乗り物だ。

だがドイツで言うイカダ「Floß(フロース)」は、イカダの浮き台部分に小屋が乗っかったようなスタイルが多い。イカダと言うよりも小舟と言った方が正しいかもしれない。

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「Floß」を画像検索すると、丸太のイカダに混じっておしゃれな乗り物がぞくぞく出てくる。底が平ければすべてイカダなのか。

去年はイカダに乗るチャンスを逃したので、久しぶりにイカダを1日レンタルしてきた。

電車と自転車を乗り継いでブランデンブルクへ

イカダのレンタルは、ボートのレンタルと同じように所々にあり、主に5月から9月にかけて利用する人が多い。

特に7月や8月の週末は予約が何週間も先に埋まっていることがあるので、事前にインターネットで予約すると安心だ。

当日の天気は晴れ時々曇り、最高気温は27度ほど。最高のイカダ日和である。今回は夫と私と、友人シャーロッテとヤコブの4人でブランデンブルクへ向かった。

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ドイツでは電車に自転車が乗せられるので、ホームには自転車専用車両の場所がマークされている
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電車に自転車を乗せ、ベルリンから1時間ほど北に向かう。
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ブランデンブルク州は、ベルリン州をドーナツのように囲む州だ。地図の中心部分がベルリンで、その外のエリアはすべてブランデンブルクである。
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到着した駅から、レンタル屋さんまでは自転車で約6キロ。
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近道しようと森の中を通ったところ、砂地でなかなか前に進めなかった。ブランデンブルクは砂質土俵なので、砂が多いのである。
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一見ロマンチックな景色だが、車輪が砂にはまってヒーヒー言っているところ。
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ボート免許もいらないイカダ

よろよろしながら、どうにかレンタル屋さんに到着。2006年から手作りのイカダを7隻貸し出している小さな店だった。

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お店の名前は「レンタフロース」。わかりやすくていい。

予定より到着が遅くなってしまったので、桟橋に残っていたのは私たちのイカダだけだった。

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まずはモーターや安全器具の説明を受ける。

レンタルイカダに乗るには16歳以上であればボート免許もいらないそう。こんなに安易に借りれちゃっていいのか。

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シングルバーナーや調理器具も貸してくれるので、簡単な料理やコーヒーなどは淹れることができる。
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モーター付きなので、手で漕ぐ必要がない。料金は一隻 120ユーロ(1万5000円)プラス最後に精算するガソリン代で、8時間借りれる。

ウェブサイトには簡易トイレがついていると書いてあったが、トイレが見当たらない。聞くと、トイレセットの収納場所を見せてくれた。

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もっとマシな写真を撮ればよかったと後悔したトイレセット。

便座のついたイスを組み立て、生分解性のバッグに用を足し、岸に上がってスコップで穴を掘り、袋ごと埋めるそうだ。

それをトイレと呼んでいいものか怪しいが、想定内なので誰も動揺しない。小の方は説明がなかったが、湖でするのが暗黙の了解になっているようだった。

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そんな感じで10分ほど説明を受け、いざ出発である。

トム・ソーヤーの冒険のリアル版

湖に出てまずおどろいたのが、6月末の日曜日だというのにひとっこ一人いないことである。

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見渡す限り誰もいない湖。時速10キロほどなので、酔うこともない。

たまにイカダやボートが通り過ぎていくこともあるが、ほぼ貸し切り状態である。本来は右側通行とかルールが色々あるのかもしれないが、ここではあまり関係なさそうだ。

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同じくレンタルイカダに乗った親子。12歳ぐらいの男の子が舵をとっていた。
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キャンピングカーが乗っかったようなイカダ。

そよ風に当たりながら湖を見渡すと、気分はトム・ソーヤーである。ここはミシシッピ川から遥か遠い、旧東ドイツのブランデンブルクだけど。

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大人のトム・ソーヤーは冒険よりもビールを冷やすのに必死である。

出発したはいいがお腹が空いたので、すぐに錨を下ろしてお昼にすることに。イカダの屋根には登ることもできるので、屋根の上でピクニックをした。

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屋根に食べ物を移動して、よじ登る。
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イカダの上でおにぎりを食べるヤコブ・ソーヤー。
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お腹いっぱいになったら昼寝をする。この上ない幸せである(手前の大きなパンはトルコ系のパン屋さんで売ってるトルコパン。フワフワで超おいしい!)

特にすることもないので、あとは返却時間までのんびり過ごすだけである。

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誰もいない湖は、鳥のさえずりしか聞こえない。
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朝から晩まで泳ぎまくった。小学生に戻った気分である。
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水上キャンプもできる

今回はデイレンタルだったが、一泊140ユーロ(約1万8000円)ほどで宿泊することもできる。つまり水の上でキャンプするような感じである。

小屋の中の通路部分に付属の板をはめ込むことで、3〜4人が寝れるぐらいのスペースが出来上がる。その上に持参したマットや寝袋を敷いて寝ることができるのだ。

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板をはめ込めていくと……
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座敷のようなスペースができあがる。
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日中もくつろぐことができる。

数日あればイカダで遠出をしたり、早朝に泳いだり料理をしたり、楽しいと思う。トイレやシャワーはないけれど、そんなことは気にしないキャンプ好きにはたまらないのであろう。

帰りに待ち構えていた蚊の大群

8時間も暇すぎやしないかとも心配したが、泳いだり昼寝をしたりで十分楽しむことができた。

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最後はガソリンタンクをはかりに乗せて、ガソリンの差額を払う。ほとんど移動しなかったので、3リットル分の5ユーロ(約650円)を払った。

イカダの返却も無事に終わり安心していたが、大変なのは実はこれからだった。

帰りは砂道を避けようと言っていたにもかかわらず、なぜか間違えてまた森の中を通ってしまったのがことの始まりだった。

朝はまだよかったものの、夕暮れ時の森は蚊の溜まり場と化していた。

しかも、砂地でうまく進めない。もたもたしている間に、蚊の大群に襲われる。しかも、Tシャツ短パンと無防備な状態。蚊たちにとっては格好の餌食である。

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必死に蚊の大群を追い払いながら自転車を漕いでいたので、帰りの写真はない。

次回は長袖長ズボンを持ってこよう。あと、森の中を通るのはやめよう、と誓った。

日曜日の夜の激混み電車

どうにか駅までたどり着いたのもつかの間、次の難題が待ち構えていた。帰りの電車だ。

週末の夜のベルリン方面行きの電車は、私たちのようにブランデンブルクから帰るベルリン民で混むのである。

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この時はまだ事態に気付いていなかったナイーブな私たち。

電車の時間が近づくとともに、自転車を持った人たちがどこからともなくぞくぞくと現れた。そのうち、ホームには自転車が8台になった。嫌な予感がする。

この駅だけで8台も自転車があるのであれば、ほかの駅でも自転車を持ち込む乗客が同じくらいいるはずだ。果たして電車に自転車を乗せるスペースはあるのだろうか。悩んでいるうちに電車が来た。

自転車用の車両の窓を覗くと、電車の中にはすでに無数の自転車が乗っていた。「ここはもう限界だよ」と中の人が言う。これはまずい。

このままベルリンまで自転車で帰るか……と一瞬考えたが、ベルリンまでおよそ70キロ。帰れない距離ではないが、ブランデンブルクの夜道は暗いし、蚊にも襲われる。

急いで隣の車両に向かうも、こちらも満杯。だがこの電車を逃したら次の電車は2時間後。選択肢はない。

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なんとか強引に中に入れてもらい、4人とも無事に乗車できた。

自転車収納エリアは本来は何台用なのかは知らないが、明らかにキャパシティを超えていた。

さらに私たちが乗ることで通路を完全にふさいでしまったが、運よくベルリンまで乗り降りする人はいなかった。

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乗れなかったら大変なことになっていた。シャーロッテも夫も目が死んでいる。

帰りの電車で思った。来年はレンタカーで行こう。

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乗れたはいいが、今度はちゃんと降りれるかどうかずっと心配だった。

世界一危険な動物、蚊

夢のようなイカダの旅だったが、蚊の大群と電車のストレスで一気に現実に引き戻された。それでも来年もイカダに乗りにきたいと思った。

イカダのキャンプも楽しそうだが、私のようなひ弱な都会っ子にはデイレンタルがちょうどいいかもしれない。

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友人に勧められて次回のために買った話題のかゆみ止め機(効果はまだ謎)。今度こそは万全の準備でイカダに乗るぞ。

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